From NV1
神戸夙川学院大学観光文化学部の原一樹(はらかずき)先生のゼミでは,サブカルチャー等のコンテンツツーリズム研究をされておられます。
2011年度の前期から基礎調査を進めており,今秋の学校祭の展示で内容紹介等が行われています。
特に,『涼宮ハルヒ』シリーズの聖地巡礼に関しては,8月〜9月に地元関係者へのインタビューやアンケート等を実施されています。
当方でも,2008年度のサブカルと産業振興に関する課題調査報告書を提供したり,ゼミのゲストスピーカー[別記事にて報告]を務めています。
◆大学祭の展示
2011年10月9日(日)・10日(祝・月)の大学祭「湊風祭」において,大学食堂で各グループの調査内容の展示がありました。
「涼宮ハルヒ聖地巡礼」以外の展示は,
- 世界初ジブリの舞台調べてみたの巻
- 昭和特撮年表(アトラクションショーと観光と特撮)
「涼宮ハルヒ聖地巡礼」の展示は,第一人者のきーぼー氏とちゃうけ氏が特別協力されています。
当方も取材協力に入れていただいておりました。 内容は…,
- 涼宮ハルヒの年表:
作品発表やアニメ化等の時期(2003年2月〜2010年5月) - 「涼宮ハルヒ」シリーズ作品等の展示:
原作文庫,マンガのほか,聖地巡礼本(柿崎俊道著,ドリルプロジェクト編の2冊) - 涼宮ハルヒの巡礼:
ちゃうけ氏作成マップ,聖地の写真(北高正門前,北口駅前公園,珈琲屋ドリーム) - 涼宮ハルヒのアンケートをとってみた:
西宮流ML協力のサンプルでの集計結果 - 聖地巡礼ノートを解析してみた:
全905件について書き込み回数の上位者3名(この3名分で16.8%占めている)
となっていました。
アニメ作品のキャプチャ画像の使用については,作品権利の管理元である角川書店グループ側に許諾をいただいたそうです。
◆現状調査の概要
10月25日(火)午前に,原先生とハルヒ研究チームのゼミ生3名の連名で某観光系学会に投稿されたペーパーを電子メールにて送付いただきました。
エントリー直後で,今後(年内)に開催される大会にて論集発行と発表があるため,現時点では詳細を控えておきます。
『涼宮ハルヒ』シリーズの聖地巡礼に関する現状把握ということで,関係者ヒアリング,ファン・一般人アンケート,巡礼ノート分析の結果概要が報告されています。
ペーパー枚数と発表時間,厳しい査読の有無等については,何らかの学会に投稿したことがある人なら,全国大会の規模と言えば見当いただけるかと。
(参考)
神戸夙川学院大学観光文化学部
http://www.kobeshukugawa.ac.jp/
ブログ内関連記事:
兵庫県のサブカル振興についてゲストスピーキング
http://hyogotsucool.seesaa.net/article/233427344.html
以下,個人的な雑感「ハルヒツーリズム研究の難しさ」を展開します。
◆雑感:ハルヒツーリズム研究の難しさ
本項は全くの個人的な所感であることを先に断っておきます。
コンテンツツーリズム研究において,北海道大学山村高淑氏と岡本健氏の『らき☆すた』研究など他作品に比べて,『涼宮ハルヒ』シリーズに関する研究(大学関係者等による学会投稿記事)はほとんど見かけない感じです。
ハルヒ自体の作品性の高さからすれば,相当な数が出ていてもおかしくないくらいですが…。
しかし,個人的に知る限りでは,関西学院大学社会学部谷村要氏が著者のタイトルを見聞したくらいです。
これについて,2008年から実際に調査などをしてきた自分なりに考えてみました。
ツーリズム研究として,『涼宮ハルヒ』シリーズの聖地巡礼(舞台探訪)に焦点を当てる難しさとして,地元での実際の活動展開が広く一般に取り上げられるところまで表出していない点があるかと考えます。
もちろん,この点については,既に言い尽くされている:舞台(聖地)が閑静な住宅地や教育的な場所である点と無関係ではありませんが,それ以上に事象が少なすぎるのではないかと。
他作品では「イベント開催で何人やって来た」等の事象があり,それを追えば研究の体裁は整えられそうです。
例えば,『らき☆すた』の鷲宮では,イベント等の様々な展開が続いており,追跡することで新たな知見が得られて,更に次の展開に活かされる…というような相互の好循環を感じます。
インプット(データ)が十分にあるから,アウトプット/アウトカムも十分に出てくるだろうと。
一方,ハルヒ研究では,肝心の表出事象が少ない,地元の展開も早くない等々で,他作品と同じ調査手法で研究の進展を望むのは大変そうです。
確かに,主要なハルヒのコミュニティ内で活動はありますが,研究論文を書けるレベルで捉えるのは少し厳しいかなと感じます。
乏しいインプット(データ)から,それを越えるアウトプット/アウトカムは期待しにくいと。
また,調査研究で他の観点から論じることも険しそうです。
- 現在までの期間の経過分析:
定点観測にかけるコストに見合う成果として評価されるかは疑問あり。長期分析できるだけの基準設定も難しい。 - 展開が少ない要因を解明:
要因(例:住民特性,地域ビジネス面)を解明しても,さらに解決策を提示・実践するのはかなりの困難が伴いそう。
もし,自分が大学院生で一定期間内に十分な研究論文を書かないといけないとすれば,素材として興味は大いに惹かれるが,確実性から回避するでしょうか。学部生の卒論で良い指導者の下ならば,単発で挑戦してみたいとは思いますが。
…というのが,修士号を2つ取った(だけで後の研究展望がなかった)自らの経験をふまえての所感です。ただし,自らが既に地域政策に携わる立場に縛られて述べているのを勘案すべきかも。
最近は,アニメ作品等の聖地巡礼(舞台探訪)を卒論テーマにして調査している学部生さんがいて,『涼宮ハルヒ』シリーズを対象にしようと考えている学生さんもおられるようです。ハルヒ(等の兵庫県ゆかりのコンテンツ)を主題に調査研究に取り組む人々には今後につながる成果を出して地域に還元いただけるように切望いたします。